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2018.06.28
CIC分析:キャリーオーバーの低減化(2016/05/26-28、岩手アイーナにて)
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ハロゲン・硫黄自動燃焼分析システムの高速化及び多元素
分析への適用(その3) : キャリーオーバの低減化

(株)ナックテクノサービス1)、(株)ヤナコ機器開発研究所2)

長嶋 潜1 出羽 好2

1.はじめに

有機微量元素分析の主流であるCHN(O)分析では、CHNを同時にかつ迅速に測定することが可能である。一方、ヘテロ元素のハロゲン(F,Cl,Br,I)及び硫黄分析では、多元素の一斉分析及び高速化が思うよう進んでいない。例えば、燃焼・イオンクロマトグラフィー(IC)の場合、酸化を必要する元素と還元を要する元素が共存する場合がある。また測定の面でも、燃焼時間を短縮してもクロマト展開に時間を要すると高速化は難しい。更に多数の試料を逐次分析する際には、既に分析された先行試料の一部が系内に残留するいわゆるキャリオーバの影響が懸念される。演者らは先に、酸化・還元系吸収液1)を用いて酸化・還元反応の効率化を行い、高速カラムにより分離時間を短縮し、一時間当たり5~6検体の4種ハロゲン及び硫黄(F,Cl,Br,I,S)の高速分析法2)並びに超微量分析法3)を確立した。これまでの研究を継続するとともに、重点課題の一つであったキャリーオーバの低減化について検討した。原因として、分析試料の燃焼システム中での加熱燃焼によって生成するガスが特に下流側の燃焼炉の排出口付近の管路に付着することによりキャリーオーバを生じ、ベースラインが顕著に乱れることを具体的に突き止めた。燃焼管の出口側からも清浄空気を導入して付着を解消することにより、キャリオーバは低減化し、測定ごとに濃度差の大きく異なる試料についても精度よく測定することができた。

2.実験

Table1

分析システムは、(株)ヤナコ機器開発研究所と共同開発した燃焼分解電気炉ユニット(HNS-15)、吸収ユニット(HSU-20),オートサンプラ(THA-25)及びイオンクロマトグラフ(IC)により構成されている。測定条件をTable 1に示す。特徴としては、試料導入部を開放した開放型燃焼管を用いることにより、機能性と併せて安全性の面に配慮した。キャリヤーガスには、ボンベ入りガス(Ar,O2)に代わって清浄空気を用いてコストの低減をはかり、試料量は、1~10mg(微量分析)と0.1~1mg(超微量分析)と2段階に分けて測定可能にした。
ICにはTOA-DKK 製ICA-2000型を、試料のはかり取りはメトラー ウルトラミクロ電子天びんUMX2型を用いた。燃焼標準には、キシダ化学製の標準試料の他に東京都立産業技術研究センターと共同開発した多元素含有標準試料NAC-st1(C12H8O2NFClBrS)、NAC-st2(C12H8O2NFBrIS)及びNAC-st4(C12H7O2NFClBrIS)を用いた。吸収液には、Table 1に示すように2種類の酸化・還元系吸収液(①,②)を用いた。なお、本研究に使用した有機元素分析用システムは、2002年に開発したものであるが、耐久性に優れ現在もなお有機ハロゲン・硫黄の日常分析に大きく寄与している。分析所要時間は10検体当たり112min、1検体約11minで分析することができる。分析システムの全体図をFig.1に示す。

Fig.1

Fig.1 有機元素分析用システムの全体図 (2002年)

3.実験結果及び考察

Fig.2

Fig.2 分離に及ぼすカラム温度の影響

3-1. イオン種の分離条件

燃焼助剤として酸化タングステンを添加すると一部タングステン酸を生成し、付近に溶離する他のイオンの分離に影響を与えるので、分離に及ぼすカラム温度の影響を検討した(Fig.2)。
カラム温度35℃では、SO42-,I及びWO42-イオンがほぼ10分以内に分離溶出し、酸化タングステン添加においても迅速分析が可能であった。

3-2. キャリーオーバの低減化

これまで燃焼・IC法の高速化及び超微量化を検討してきた。その中で最も留意すべき点は、キャリヤーガスの汚染及びキャリーオーバ(前の試料が系内に一部残留)による影響が挙げられる。一般に使用される洗浄瓶を用いてキャリヤーガス中の不純物を吸着及び洗浄により除去した。また、下流側の燃焼炉の排出口付近の管路に燃焼生成物が付着することにより、ベースラインが顕著に乱れることを具体的に突き止め、燃焼管先端部への吸着を防ぐためにニードル管の外側からも清浄空気を相当量導入する方法を採用した4)
一つの試みとして、キャリーオーバの一斉試験に標準試料のNAC-st4を用いた。この方法によれば、F、Cl、Br、I及びSの計5元素のキャリーオーバ値を一度の測定により把握することができる。NAC-st4のクロマトグラムをFig.3に、試験結果をTable 2に示す。

Table2

Fig.3

Fig.3 NAC-st4の燃焼・クロマトグラム

Fig.4

Fig.4 FBI含有化合物のクロマトグラム

本システムでは、試料燃焼・注入後一回吸収系内を純水で洗浄しているが、本法のキャリーオーバ試験は、試料測定後空試験を行い、ブランクとして検出されたものを第1回目キャリーオーバ値とした。第1回目ブランク(キャリーオーバ)はS:<0.25%、他の元素は<0.20%となり、連続して行なった第2回目ブランクでは、5元素いずれも検出限界以下に低下した。また、標準試料 NAC-st4の焼焼量を変えて測定したがキャリーオバ値に大きな変動は見られなかった。

3-3. 実試料への適用例

最近のエレクトロニックス及び燃料電池などの分野から提出される試料を見ると前述の5元素の他にホウ素、リン、金属など含有元素も多岐に亘っている。
一例として、ホウ素及びヨウ素を含む高フッ素含有化合物(FBI含有化合物,C40H18BF20I,mw:1016.25)の分析例を紹する。
FBI含有化合物及び標準試料の4-Fluorobenzoic acidの燃焼より得たイオンクロマトグラムをFig.4に、分析結果をTable 3に示す。
4-Fluorobenzoic acidでは、BF4イオンの保持時間(RT)にピークが認めらないが、FBI化合物ではBF4イオンのピークが認められる。したがって、BF4イオン生成は外的な因子ではなく、化合物中のフッ素とホウ素は燃焼管内で分解されるものの、系内で再び反応し、BF4イオンを生成したものと推定する。BF4生成前にホウ素を選択的にトラップするため吸収剤(WO3)の添加あるいは燃焼炉の温度を上昇させてBF4の完全分解を試みたが、改善は認められなかった。また、Table 3よりFBI含有化合物は、F推定値:37.4%に対してF分析値:33.1%を、BF4の分析値は3.3%(Fとして)を示し、合算しても36.5%となお低い値を示している。フッ素とホウ素を共に含有する有機試料のフッ素分析については今後の検討課題が残される。一方、ヨウ素分析については、推定値:12.5%に対して分析値:12.4%と多量のフッ素存在下にも関わらず正常な分析値が得られている。

Table3

4.まとめ

「ハロゲン・硫黄の自動燃焼分析システムの高速化及び多元素分析への適用」なる題で3年にわたり燃焼及び分離分析の高速化、超微量分析法の確立など検討した。そして、今回はキャリーオーバの低減化を検討した。主流のCHN分析と同様に、ヘテロ元素についても多元素を一斉に、迅速に、安いコストで、手軽にできる時代がくるものと思われる。

文 献

1) 長嶋 潜 : 特許第5266440号(2013).
2) 長嶋 潜 : 第81回有機微量懇談会シンポジウム講演要旨集 p6(2014).
3) 長嶋 潜 : 第82回有機微量懇談会シンポジウム講演要旨集 p48(2015).
4) 長嶋 潜 : 特願 No.129359 (2015).

Speed-up of halogens and sulfur automatic combustion analytical system and application to multielementaly analysis (3) : Reduction of carry over

○ Nagashima Hisomu (NAC Techno Service Co., Ltd.)   Dewa Yoshimi (Yanaco Co., Ltd.)

Abstract
An automatic analyzer for organic halogens and sulfur has been developed by coupled combustion/ion chromatography (IC). The system is composed by combustion furnace, absorption unit, automatic sampler(Yanaco) and ion chromatograph(TOA-DKK). The reduction of carry over (blank after NAC-st4 analysis) was examined in this study. We have established a simultaneous micro-determination of organic halogens(F,Cl,Br,I,S) and sulfur, based on conductivity detection after decomposition in this speed-up automatic system using clean air.